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責めの作家と誤られて 松井香代子

 松井先生……とおよびするより、お姉様とおよびすることをお許し下さいませ。

 お姉様
 私はお詫びしなければならないのです。
 松井籟子というお姉様のお名前を、たった一度ある女がいつわって使ったとしたら、お怒りになりますでしょうね。
 でも、松井というのは、本当に私が親から受けついだ姓なのです。
 もしかしたら、お姉様には他のお名前がおありになって、松井籟子というのはペンネームかしらと思います。だったら、私の方こそ、この姓を堂々と使っていいはずなのです。
 でも、籟子という名まで便ったらやっぱりいけないことでしょうね。だけど、私は、その人に、私が松井籟子ですといったわけではありません。
「松井さんですか?」
と聞くのに
「そうです」
と言っただけですもの。私はべつに不正直ではなかったわけです。
 お姉様、もう一度はじめからお話ししましょう.私は話下手なのに、まして、文章に書くなんてこと、慣れて居りませんし、こんなに最初からしどろもどろで、さぞお読みにくいことと思います。
 お姉様はよく小説に大阪や神戸のことをお書きになりますが、どこにおすまいなのか私は知りません。この手紙も奇クの編集部から本当にお姉様の手に渡していただけるのかどうかわかりません。

 でも、私がこれから書こうと思うことはきっと小説の材料になると思います。
お姉様に美しい文章で小説に書き直していただけたら本当に嬉しいのですけど、もし、もしもこのまま奇クにのせていただけたら。
 でもそんなこと夢でしょうね。私のへたくそな文章で、奇クの誌上にさし絵を入れてのせていただくことを考えるなんて、大それた夢なのかもしれません。
 私も一度でいいからお姉様のように小説を書いてみたいのですけれど。
 会社でも、会社の中で皆で作っている雑誌の編集をやっているのです。

 文学少女という程乳くさい少女ではありませんけれど、まだオールドミスには間があると思います。文学女性とでもいうのでしょうか?

 私がお姉様と間違えられたのも、実は私が買いたての原稿用紙をかかえていたからなのです。
 そうです。間違えられたのです。
 ただその間違いを知っていながら「ええ」と答えたのはやっばり私が悪いのでしょうか。

 でも「ええ」と答えたばかりに、私は今、この暑いのに手首まであるブラウスを着ていなければならなくってしまったのです。
 私の両方の腕の白桃のようにピチピチと張り切った皮膚が、赤紫に一面に絞り模様のように痣になっているのです。痛みはもうありませんけれど、そんな腕をあらわに出して、どうして歩けるでしょう。
 ましてその絞り模様の真ん中に、赤く、くっきりと2本の線が残っているのを縄目のあとだと言わなくてもまさか腕輪のあとだと思ってくれる人はないでしょう。

 ちようど3日ほど前のことでした。
 会社の帰りに私は友達と神戸の新開地を歩いていました。
「今日はこの手でいこう、明日はあの手でいこう、夫婦和合の四十八手は裏おもて……えーおひとりさん、はい60円お返し……さあさあ、今が丁度いいところ……」
 ラウドスピーカーから声高に流れ出してくるのに、私は足をとめました。
 雑な小屋がけの羽目板に、奇クの口絵や写真がはってあるのです。奥のつき当たりには青い電気がついていて、笹やぶが見えます。私は思わず近よってみました。

 花模様の着物の裾がおしひろげられて、白い足を長くのばした女の人形が、地面に転がされているのです。
 血の通っていないその白い足が、妙に無気味で人形というよりは、死人に白粉を塗ったような、ぞっとするものを感じました。
 そのわきに、男の人形が手に荒縄を持って立っているのです。私は肌が粟だつような気がしました。
「松井さん、これ書いたらいいのに……」
 そばにいた友達がそう言いました。
 それは私が会社の雑誌に「新開地ひとり歩記」というのを書くことになっていたからです。
「そうね」
 私は生返事しながら、人形のそばからはなれて、お仕置きにされている女の絵を見ていました。
 その時私は私の片頬に射すような視線を感じふと見ると、髪をアッブスタイルに結った木暮実千代のような感じの中年の女の人が口元に微笑をうかべて私をみているのです。
 その視線をまともに受けると、私は美しい男の人に会ったような恥ずかしさを感じて目を伏せました。
 でも、そのまま、つつと外へ出てしまうのも、かえって何だか変だったので、むしろ知らん顔して、次々に絵や写真を見ていました。

「ねえ、松井さん、入ってみないの?」
 友達がそういうのです。
 実はその友達と私はいつもどきどきしながら奇クを読み合っていたのですが、二人とも恥ずかしくて縛られてみたいと思いながら、何となくどっちかが言い出すのを待っているみたいな間だったのです。
「松井さんなんか、きっと参考になるわ」
 友達は会社の雑誌のことを言っているのですが、友達が「松井さん」と呼ぶ度に、その木暮実千代に似た人の目が私に微笑みかけるのが、その方を見ないでもよくわかるのです。

 私はその目から逃れるような思いで、入場料の40円はちょっといたいなと思ったのですけど、友達の分と80円払って、竹やぶのお人形のわきから、中へ入りました。

 奇クで読むようなことを、本当に芝居かなんかで見せてくれるのかと思ったのです。

 ところが中は床几のような長い椅子が並べてあって、正面にスクリーンがあって、映画をうつしていました。

 入った時は性病予防の映画で、それが終わって、いよいよ何か面白いものやるのかしらと思ったら、その次に写し出されたのは古い外国の無声映画なのです。
 私は退屈してまわりを見廻しました。
 やっと暗さに目が慣れてくるとまわりの羽目にポスター位の大きさの絵が沢山かけてあるのが見えました。

 −−寝室で乱れるのは、むしろ奥様のエチケツト− 
そんな文章が書いてあって、長襦袢から乳をのぞかせているような女の絵が書いてあったり

 −−奥様の寝化粧、頗ばかりでなく全身を−−

 そんな文章の下でなまめかしく肌を出している絵もありましたけれど、一つも私の期待したような絵も写真もないのです。
 もっと中の方へ行ったらあるのかもしれませんが、男の人が大勢いるのに、いちいちその絵を見て廻るのは恥ずしかったので、入口近い所だけ、わずかな光線をたよりに、書いてある言葉を読んでいました。

 そのうち、ふっと気がつくと友達の姿が見えません。映画を見ないで一緒に絵を見て歩いていたと思っていたのですが、絵につられて観客席の前の方へ入っていってしまったのかもしれません。
 私はしばらく入口近い所に立って待っていたのですが、出てこないしそこにひとりで立っているのは何だが不安な感じがしたので、出てきてしまいました。

 外へ出る時に、見るともなく、もう一度私の目にとびこんできた人形の白い足と、男の人形の持っている繩が私の体の奥底をゆすぶるような、変な気持がしました。

 そのまま、ひとりで神戸新聞の方へ歩いていく私を
「あのう、失礼ですが……」と、
後からよびとめたのは、さっきの小暮実千代に似た人でした。
「本当に失礼ですけど、あのう、奇譚クラブという雑誌御存知ではないでしょうか……」
 というのです。
「ええ」
 と、私はうなずきました。だって、知っているんですもの。するとその人は
「やっぱり……」
 と微笑んで
「私のカンが当りましたわ。おつれの方が松井さんて仰言ったのでピンときましたの。場所があんな所でしょうフフヽヽヽ
 と意味あり気に笑ったのは、大方、同好の士よという意味だったのかもしれません。
「私、松井さんのものみんな読ましていただいていますのよ。ねえ、そこらで冷たいものでも召上りません?」
 という女の人に、私は私が松井籟子さんと間違えられたのだとわかったのです。

 私がどうしようかと思っているのに、その人は並んで歩き出すと
「女のくせにあんな見世物を見ていて、私、何だが気が引けていましたの。そしたら、あんた達も同じように見てらしたでしょう?ああ、やっぱり女の方でも私と同じようにああしたものに興味もつ方もあるんやな思いましてん。
 原稿用紙持ってはるでしょう?、変やな、何か小説でも書きはんのと違うかいな思うてそれとなくお話し聞いているうちに、ははんと気いつきましたの。松井さんやったら、うち、フアンやさかい、一度お話してみたい、でも、もし違うてたらけったいやし……。」
 その人はだんだん大阪弁になり、そうかと思うと、きれいな江戸ツ子でしやべりたてるのです。私はもう、「実は松井は松井ですけど、違うんです」と、よう言えなくなってしまいました。
 喫茶店へ入ると、メニューを見ながら
「松井さん、ようお酒のこと書いてはるけど、お好きなんでしょう?」 
 と、大阪弁と江戸ツ子とまぜた言葉で聞くのです。

 お姉様はお酒お好きかどうか知りませんが、私はビールならのめるのです。父がノンベなので相手をしているうちに強くなったらしいのですが、会社の宴会でびっくりされる位で、まさかひとり、のむようなこともありません。

 でもその日は何だか妙に興奮していたのでしょう。冷たいビールがのんでみたいように思いました。
 それからその女の人とそこでビールをのんで、出てからまたもう一軒行って、三軒目に行ったお店で電話を借りて、今日はお友達の所へ泊ると近所の魚屋さんからうちへことづけてもらった頃は、いっぱしの小説家きどりで そんなじだらくさをたのしむ気持で一杯でした。

 前おきが随分長くなりましたが、せっかく私の本当に経験したことを、作りあげたことのように思われると癪なので、だらだらと書いてしまいました。でも、私の書きたいことは本当はこれからさきなのです。

 タクシーに乗せられて、どこをどう走ったのかよくわかりません。止まった所は大きなお家ばかり並んでいて、草の匂いが夜気の中に漂っていました。(こういう文章はお姉様おとくいだから、あまりまねしていると笑われそう……)
「どうぞ」
 と女の人が促したので、大きな門の横の小さなくぐり戸を入って玄関の前に立ちました。
 ベルを押すと中の鍵をはずしてあけてくれたのは男の人でした。
「お帰り」
 静かにそういう人は女の人の弟のようによく似て美しい人でした。お小姓の姿をさせたらよく似合いそうな感じで、私は何となくまぶしいような気がしました。
 女の人といい、その男の人といい、美しかったので私はつい気をゆるしてしまったのだと思います。
 もっと恐いような大男や、お姉様の”淫火”の中の松枝のような女の人だったら、私もまさか一緒にビールをのんだりしなかったでしょうし、その家へ上りもしないで逃げ帰えったことでしょう。

 誰でも美しい人には惹かれます。その美しい女の人や、お小姓のような華奢な人が、あんなにも惨酷なことをしようとは、誰が思うでしょう。

 お庭のわりには小さな家でしたが、お縁側も広く廻り縁になっていて、風雅な建て方をしてあるのが、私のような俗人にもわかりました。
 女中さんもいないのか、ひっそりとして、虫がしきりに鳴いていました。
 庭に面したお座敷でまたその人は冷たいビールを持ってきてすすめてくれましたが、私はもう飲めませんでした。すると、甘い口あたりのいいカクテルのようなものを出してくれました。それがかえってビールよりは酔うようでした。

「松井さんはいったいマゾなの?サジなの?…」
 その人は聞きました。
「さあ?……」
 私はあいまいに微笑をすると
「やっぱり縛られてみないと、本当の感じ書けないでしょう?誰に縛ってもらいはるの?」
 と聞くので、私はまた
「そうね……」
 と、言葉を渋りました。だって、私は松井籟子さんと違うんですもの、どう答えたらいいのでしょう。
 するとその人は
「ねえ、私に縛らせてよ。いいでしょう? 今度書くのにきっと参考になるわ。ねえ、ちょっとだけ……」
 そういうのです。私も酔っていましたし、前にも書いたように、そんな美しい人がひどいことをするなんて思えなかったので、
「あんまり痛くしちゃいやよ」
 そういって、手を自分から後に廻しました。
 その人は私の後に立ってきて
「皺にするといけないから、これおぬぎなさいね」
 と、ブラウスのポタンをはずしました。そして短い紐で手首だけ後手に縛ったのです。

 乳首のさきが、絹のスリツプからポツンととび出しているのが何だか恥ずしくて私は自然うなだれて目を伏せていました。

 すると、いつの間に用意したのか、細い真田紐がぐっと胸をしめるのです。そして手首は思いきり上へ押しあげられ、紐は手首にからませて、のどへ廻わされました。
 それからまた別の紐を二の腕に廻わして後へ引っぱられたので、私の上半身は背中の真ん中へ固定されたように動けなくなってしまいました。
「さあ、これもぬぐのよ」
 その人はスカートまでとろうとするのです。
「もういや、ほどいて」
 私は言いましたが
「まだこれからよ」
 そう平然というと
「ちょっと手を貸して」
 と、奥へ向かって呼びました。
 男の人は冷たい無表情な顔で私の足を押さえました。二人がかりではかないません。スカートも下ばきもとられてしまったのです。

「さあ、あなたは私の囚人よ。囚人が座敷にいるのは変よ、下へおりなさい」
 と、私の繩尻をもって引き立てようとするのです。
「なぜそんなひどいことなさるの、ほどいてよ。さもないと大きな声出すわよ」
 と、私は言いました。
「出してもいいわよ。誰も助けにこないわよ。それが払達の遊びだってこと、近所の人は知ってるわ。はじめは驚いたらしいけど……。それに、聞こえるったってわずかよ。ここは庭が広いし、お隣も庭が広いから、少し位大きな声を出しても大丈夫……」
 女の人は笑いながら言うと
「今日は松井さんをたっぷりいじめてあげるわ。いい小説が書けたら私に感謝なさいね、さあ、庭へおりなさい」
 私は椽側から突とばされて、地面に這うように転んでしまいました。そのまま起き上ることもできません。
「起きられないの? 起きないと水をかけるわよ」
 女の入はバケツで水をくんでくると、私の背中へざあっとあけました。
[痛いことは徐々にしてあげるわね、水なら痛くないでしょう?」
 そう言うのですが、縛った紐がよけいきつくなって胸や腕をしめつけます。

「さあ、起きなさい。起きられないの?」
 今度は竹の棒を私の胸に入れて起こすのですが、上半身が起きてもまだその棒で突きつけるので、私は今度あお向けに転んでしまいました。
 絹のスリツプが水にぬれて、乳首が黒く透け、おへその穴がへこみ、その下でもりあがっている体の線がそのままあらわになるのが、裸体にされたと同じように恥ずかしく、私は何とかして起き上ろうとしました。
 足はまだ縛られていませんでしたから、2本の足を真っすぐのばして上へあげて、腰ではずみをつけて私は上半身をおこすことができました。
「もうかんにんしてちょうだい。お願いだからほどいてちょうだい」
 私は言いましたが、
「フフフフ、あなたはマゾじゃないの? サドなの? さあどっちなの? 白状しなさい」
 と、竹の棒で、やっと起こした私の首を、私の足の上へぎゅうぎゅうと押しつけるのです。
「どっちでもないわ」
 私がいうと
「櫨おっしやい」
 いきなりピシツとそれで背中を打たれました。
「あっ!」
 と、私はもう言葉も出ません。
「さあ、言いなさい、どっちなの? こうされるといい気持でしょう? え? どう?」
 言いながら、ピシッ、ピシッとふりおろす竹の下で、私は顔を地面にすりつけるように転ってしまいました。口の中へ土が入って、ジャリジャリと口の中にひろがります。

 転ったら転ったなり、ただわずかに自由な足で地面をこするようにして逃げようとしましたが、竹の棒は容赦をしてくれません。よし、またふりおろされない間があったとしても、逃げるよりは、ハア、ハアと荒い息を吐く方がさきでした。
 水で濡れている上に、地面の上を転げまわったので、顔といわず体といわず泥まみれで、それにすりむいた血がにじんで、私は乞食のような姿でした。

 でも不思議なことには、そんなにされながら、私はもう大きな声をたてようとは思いませんでした。それよりも、何だかしびれるような喜びがひたひたと波のよせるように私の体中を流れていきました。
「手が痛くなったわ。少し代わってよ」
 女の人は男の人に言いました。
 それまで縁側でだまって見ていた男の人は
「もう疲れたの?いくじがないな」
 と笑って庭へおりてくると、荒縄で、今までわずかに自由だった足を、足首を合わせてくくってしまいました。そして、足首の繩と、後手に縛った繩を一つに結んでその繩尻をとると、
「さあ、あの松の木の所まで行きなさい」
 というのです。
 けれど、足と手と一つに縛られて、どうして歩くことができるでしょう。
「膝で歩いて行くんだよ」
 片手で縄尻をとり、片序で竹の棒を持って、やっと、よろよろと動いている私の背を打ったり、突いたりするのです。
 前へのめるのは繩尻を引いて支えてくれますが膝の下に石を踏んだ痛さに、体の重心を失うと、横ざまに倒れてしまいます。それを引き起すと、膝の下の石よりもっと痛い竹の鞭が、肩や背中にとぶのです。乞食のように泥まみれの私は足のないなりんぼのような姿で、松の木までやっと歩いていきました。
 いいえ、それは歩くというより、動いたという方が適切です。
「御苦労さま、少し静かにさせてあげるよ」
 男はからかうようにいうと、足の繩をほどいてくれましたが、今度はそこに置いてある竹の縁台へまたがらせると、縁台の脚へ私の足を片足ずつ結えてしまいました。
 そして、別の長い繩を輪にして私の首にかけると、松の枝にその繩を投げて、枝をくぐらせて、ぐんと引っ張りました。

 私は首を吊られて上半身をのばしましたが、足は縁台の脚に縛りつけられているのです。亀の子が首だけ吊らされたように、のどの皮が破れるかと思う程のばして、目を白黒させました。

 男の人は今度はその縄を、私の後手にくくられた手の間にかけて、もう一度逆に松の枝を通して引っ張りました。肩から二の腕へかけて、筋がひきつったようにピンと張ってその痛さは息が止る程でした。
 身動きのしようもありません。何という奇妙な恰好でしょう。

「どう?どんな気持ち?いいざまね」
 男はそういうと、まだそれでも足りないのか。スリツプの裾をたくしあげました。私のお尻は皮をむかれた果物のように、くるっととび出したことでしょう。
 私にはそれは見られようもありません。
 男はピシヤッと平手でそのお尻をたたいて、
「いい音がする」
 と笑うのです。
 たたかれて、ピクッと私は動きましたが、お尻の痛みより、のどや手の痛さの方がたえられない位で、私はまた亀のようにじっとしているより仕方がありませんでした。

「フフフフとうとう静かになったわね」
 さっきの女の人が近づいてくると、「少しいい気持にしてあげるわね」 
 そう言って、私の乳首をいじり出したのです。何ともいえない電気の様なものが、体中を走り出しました。

 しかし、それはすぐ呻めき声に変りました。何故なら丸裸になっている私の台尻を、男の人が羽根のようなものでくすぐりだしたからです。
 前からは女の人が乳首を両手でもてあそんでいるのです。
 私は泣くような、笑うような声でうめきました。うめくだけで身動きも出きません。ただ
「ううーっ!、ヒーッ!、ウフフフッツー、ああっ!うっうっ!ヒーッ!」
 笛を吹くような、自分の声とも思えない奇妙な声で、私はうめきました。

 いつか男の人の手は羽根を捨てて、おかしな動きをしだしました。私は手足を縛られ、首まで吊るされたみじめな恰好のまま、男の指に最後の喜びの悲鳴をあげなければならなかったのです。

 松井籟子禄
 それから私がどうされたか、もうあまり長くなるからやめにします。私はあくる日一日綿のように疲れはてた体で眠りをむさぼりました。
 夜になってから、また自動車でおくられて神戸まで帰ったのです。
 新しいスリップと、新しい白いデシンの長袖のブラウスを私はその女の人から貰いました。

 さいわい、父は出張中で家には手伝いの小母さんしかいなかったので、何とかとりつくろうことができましたが、腕やのどに残った繩のあとは、いったいいつ消えてくれるのでしょう。

 籟子様、あなたのお名を借りたばっかりにこんなめに会った私を自業自得とおわらいになりますか?
 でも私は今になって、もしかしたら、私をいじめたあの方が、籟子様、あなたではないのかとふと考えています。わざと私を間違えて、私がそれをたださないのをお腹の中で笑いながら、あんなことをなさったのではないでしょうか。
 籟子お姉様、もしそうだったら、私はちょっともお恨みに思っていないということを、申し上げて、この長い手紙を終わります。
        
(おわり)
(『奇譚クラブ』昭和28年11月号))

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